【開催レポート】ユース世代の可能性を拡げるには(前編)

最終更新: 4月12日

2019年ラグビーワールドカップ日本大会、2020年オリンピックパラリンピックとスポーツのビッグイベントが相次いで日本で開催され、スポーツに注目が集まる昨今。競技場で輝くアスリートはもちろんのこと、彼ら彼女らと伴走しゴールを目指す指導者の手腕にも大きな期待が寄せられている。


2018年12月3日に開催されたトークセッション「ユース世代の可能性を拡げるには〜3競技の日本代表コーチの視点から考える〜」では、ユース世代のトップアスリートを率いて世界と戦うコーチが一堂に会した。


ユース世代のアスリートは未知のポテンシャルを秘めている。その可能性を最大限引き出すためには、いったいどんなことに注力すればよいのか。3競技のユース世代日本代表コーチがそのノウハウを語った。


【パネリスト】

・安保 澄氏

(公財) 日本バレーボール協会 Team CORE 女子監督


・野澤 武史氏

(公財) 日本ラグビーフットボール協会 リソースコーチ


・萩原 美樹子氏

(公財) 日本バスケットボール協会 U-16、U-18、U-19女子日本代表ヘッドコーチ


【モデレーター】

・中竹 竜二

(公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター

(一社)スポーツコーチングジャパン代表理事



中竹竜二(以下、中竹):お三方の自己紹介をしていただきます。まず、安保さんからお願いします。


安保清氏(以下、安保):みなさん、こんばんは。安保清と申します。学生の頃から女子バレーボールチームの指導を始め、現在は公益財団法人日本バレーボール協会で、U23とU19、U20の女子日本代表の監督を仰せつかっております。簡単なコーチの略歴ですが、学生コーチを経て一度サラリーマンを5年ほどやりました。サラリーマン時代も大学のチームのコーチをしていましたが、コーチとしての実力が何もないことを痛感し、「その競技を諦められるくらい勉強しよう」と大学院に行きました。


安保 澄氏

(公財) 日本バレーボール協会 Team CORE 女子監督



その後、実業団のイトーヨーカ堂、それから武藤というチームでコーチをし、2009年から2010年のロンドンオリンピックまで当時の監督であった眞鍋政義さんの下でアシスタントコーチを担当しました。ロンドンオリンピック後、久光製薬のコーチに就任して、現在代表チームの監督である中田久美さんが監督をしているときにアシスタントコーチをしました。

2013年の9月に東京オリンピックが開催されることが決まり、アンダーエイジの育成が新たなプロジェクトとして立ち上がりました。その新たにできたポストであるアンダーエイジの監督を2014年からやっています。


まだまだ私も力のないコーチだと思っていますので、みなさんから学びを得て帰りたいと思っています。いろんな意見を交換できればと思います。よろしくお願いします。


萩原美樹子氏(以下、萩原):よろしくお願いします。萩原美樹子と申します。現在は公益財団法人日本バスケットボール協会のジュニア専任コーチとして、U19からU14までのシニア代表以外のアンダーカテゴリーを預かっております。


私は現役時代バスケットボール選手でした。1989年に当時共同石油という会社で、今はJX-ENEOSサンフラワーズというチームに入社しました。そのチームで10年間トップリーグでプレーをしました。その際、96年にアトランタオリンピックがあってそこに出場し7位入賞。97年にWNBAというプロリーグが発足してそこのドラフト2巡目にかけていただき、初のプロリーグの日本人選手としてアメリカで2シーズンプレーしました。その後、引退をしまして、30歳で大学受験をしました。


萩原 美樹子氏

(公財) 日本バスケットボール協会

U-16、U-18、U-19女子日本代表ヘッドコーチ



その時はコーチを全くやる気がなく、歴史家になろうと思って文学部に入りました。30歳人生バラ色で何でもできると思っていたましたが、意外と何もできず結局バスケのコーチとして戻ってきました。早稲田に入った時に、大学にお声かけをいただきアシスタントコーチから始めて、2011年から2015年にヘッドコーチをさせていただき、インカレを2回勝ちました。その間に日本女子代表から声をかけていただき、2012年のロンドンオリンピック予選で代表チームのアシスタントコーチをしました。現在はジュニアの専任コーチとしてやっています。


ここまでの様子を拝見するに、みなさん活発に意見を出されているので、私自身も色々な知見を得られるのではないかと非常に楽しみにしています。よろしくお願いします。


中竹:ありがとうございます。では、最後に野澤さんお願いします。


野澤武史氏(以下、野澤):みなさんこんばんは。日本ラグビー協会リソースコーチの野澤と申します。一個、お断りをしたいのですが、昨晩から断続的に鼻血が出ておりまして、もし話している最中に鼻血が出ましたら、ワタを詰めさせていただきますが何事もなかったかのように聞いていただけたらと思います(笑)。


私には萩原さんのような強力な経歴はありませんが、日本協会のリソースコーチとして7年間ほどユースの育成に携わっております。ユースとは上が20歳、下が15歳です。元々は慶應でラグビーをやっており、その後神戸製鋼でラグビーをしました。その後2011年に母校のコーチをしますが、結果が全然出せず途中で解任されてしまいました。苦い思いをして二進も三進も行かない時に中竹一門に入りまして、その後コーチのノウハウを教えてもらいました。それからずっとユースの活動に携わっています。


野澤 武史氏

(公財) 日本ラグビーフットボール協会 リソースコーチ



本業は山川出版社という歴史の教科書屋で働いておりまして、教える人が使うコンテンツを作っています。実際、自分も2年前まで大学院に通っており教えられる側でもあって、コーチングをしているということで、いろんな角度で物事に関わっています。「若者が世界で戦うにはどうすればいいか」を自分の志として生きているので、そうした側面からみなさんといろんなことを考えられたらと思います。楽しい時間にしたいと思いますのでよろしくお願いします。



そもそもユース世代の強化は必要なのか?


中竹:ありがとうございます。本日は私がモデレーターとなって色々と話していきたいと思います。みなさんの課題や期待の中に細かいテクニカルな話もあると思いますが、議論の前提としてまずは上位の方から話したいと思います。


中竹 竜二氏

(公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター

(一社)スポーツコーチングJapan代表理事


私自身、日本ラグビー協会にいる中で「ユースはお金あるの?」「意味ないでしょ」といった声も見られます。ただ、やっている現場からすればとても大事で、ここに投資をしないと将来はない。実際どこの企業もそうですが、若手に投資するのにそこまでドラスティックに思い切っていけないのが現状。ユースを育てるのがいかに大事で、そもそもなぜ育てるのかという議論から実際にどうやってやるのか、というようにWHYから考えていきたいと思います。安保さんは、専門家ではない人に「ユースの強化は本当に大事なのか」と聞かれた時にどんな風にお答えしますか?


安保:やはり、我々が預かっている選手をどこに連れていきたいかというと、シニアの代表です。その未来を見たときに早い段階でより良いプログラムを若い世代に提供することで、トップ代表との競技力のスタートが早くなります。トップ代表の競技力の効率的な向上に寄与するという理由でユースの育成が必要と答えます。


中竹:もし、ユースの強化がなかったらその競技はどうなりますか?


安保:間違いなく廃れますね。


中竹:ありがとうございます。萩原さんはどうですか?


萩原:私もユースの代表に関わっているので安保さんと同じような回答になりますが、やはりシニア代表の強化に必ずつながると思います。実感として技術的なことや現場に関わることだけでなく、例えば10代から日本と異なる文化に触れているので異国の食べ物が大丈夫、といった環境に対応する耐性がつきます。こうした技術だけでなくて、生活や人間性というところでも必要なのかなと思います。


中竹:ありがとうございます。野澤さんはいかがでしょうか?


野澤:ユースがなぜ必要かというと、それを経験した選手が若い時から疑似体験を積めることにあると思います。私自身も21歳で日本代表になって、そこがピークだったという早熟の選手なんですけど、19歳の時に初めて国際大会に出て「こういう世界があるのか」と実感しました。例えば、先ほど萩原さんがおっしゃったようにフィジカルの部分もあればスキルの部分もあり、知性の部分もあればライフスタイルの部分もあって、当たり前の幅がだいぶ広がっていくこと。加えて、「またここに戻ってきたい」という志の部分。僕の場合は妄想野郎なので、当時流行っていたキャプテン翼という漫画がありまして、「翼くんのようになりたいな」から「なれるんだ」ということを19歳の時に感じました。そこからのドライブの仕方が他の選手とは違ったかなというのがあります。そうした観点から、絶対に必要だと思います。


中竹:みなさんは、そうしたことが大切だと思って指導をされていると思いますが、現状(ユース世代は)手厚い支援を受けているのでしょうか?安保さんどうでしょう?


安保:やはりシニアカテゴリーの評価に比べるとユースは、コスト面、練習環境、指導に関係する人の手数が違います。そういう意味では、ユースの方がどちらかというと工夫をしながら取り組まなければいい育成ができないと思います。


中竹:バスケ界はどうでしょう?


萩原:安保さんと同じです。予算がないと言われると、ジュニアの方から減らされて後回しにされます。


中竹:ラグビー界はどうでしょう?


野澤:ラグビー界も捻出するのが大変です。


中竹:他の競技もそうでしょうが、みなさんに今日持ち帰ってもらいたいのはこういう現状があるということ、と同時に「他の国はどうなのか」「他の競技はどうなのか」を知るということです。


例えばヨーロッパのサッカーは、一番いいコーチを16、17歳にあてようという動きが始まっていて、そこで見ているのは5年後だと。意外と5年はあっという間で、W杯が終わって大会が近く時に焦って何億ものお金をかけますが、ユースならすごい安く済む。そういうことに気づいたチームが「やっぱりいいコーチはそこに持ってこよう」という考えになっています。シニアになった選手のケアをやるより、若い時にセルフケアを覚えさせた方がいいので実際に始まっているのです。これって知らないだけで、日本は他の国がやっていればすぐに真似ると思うので、こういうのが当たり前になればいいなと思います。



勝つことがすべてではない、勝利からどう成長するか


中竹:もう一つ聞きたいのが、なぜユース世代が大事かということと同時に、もっと上位概念のそもそも勝つことって大事なのか。ユース世代において勝利至上主義もありますが、「勝つことはそんな大事なのか」と聞かれた時にどうお答えしますか?


野澤:私はユース世代で勝つことを否定していません。なぜなら自己効力感、自分は成功できるんだという根拠のない自信というのは、若い頃の成功体験から生まれると思うからです。


あとはやはり、長期的な視点で見るということが大切。「スナップショット」と「ムービー」二つの軸を考えています。言い換えれば「その瞬間のカシャっと撮った成功」と「ムービーで映像を捉えて長い時間かけてどういう成長曲線を抱いているのか」、この2つの軸のバランスが大事だと思っています。


中竹:いいですね、ありがとうございます。萩原さんはどうですか?


萩原:私も勝つことは大事だと思っています。ただ、勝つために何でもしていいとはユース世代に言いません。やはり全力を尽くして負けることも当然あるので、それも大事な経験だと伝えています。ただ、初めから「負けていい経験をしたね」では困るので、全力を尽くすことは、一つの結果の見え方として一番わかりやすい。野澤さんがおっしゃった自己効力感にいいアプローチができるので、勝つことを求めています。


中竹:安保さんはいかがでしょうか?


安保:勝利を目指すプロセスにこそ学ぶことがあると思います。なので、競技をする上で勝利を目指さないことはないと思います。ただ、勝つプレーをする選手を育成するのではなく、勝利に向かってそのプロセスで努力できる選手を育成しています。「勝利するんだ」という結果目標を目指さなければ、そのプロセスで学ぶものは低いものになると思います。



もう一つ考えているのが勝利の先。つまり競技を終えた時に何が残っているかということです。例えば、ラグビー、バスケ、バレーとありますが、その競技が上手いことは世の中に出た時に何にも役に立ちません。その競技を目指す時に学び得た強さ、人を助けること、仲間と共に努力する、そうしたことが世の中に出て役立つと思います。勝利のプロセスで学ぶこと、勝利を目指した後にどのように活かしてもらいたいかまで考え抜くと、勝利は目指さなければならないことだと思います。


野澤:安保さんが全日本ユースのコーチしている姿を見学させていただいた時に印象に残っていたのが「意図したことをやってくれ」という言葉。この言葉をひたすらおっしゃっていて、怒るところはだいたいそこだったと感じます。ユースを教える際は自尊心を育てたいので、ムービーで選手を捉えたいという意味でおっしゃっていたと思います。


逆に言うと、ユースの子どもは大人が「こうだぞ」と言うと「はい!」と言うけど「全然聞いていない」「心の中では全くそう思っていない」ことが多いと思います。そういったところをいかに引き出していくのか、ぜひ安保さんからお伺いしたいです。


中竹:ぜひお願いします。具体的にどんな風にして意図したプレーを強調しているのですか?


安保:選手には少し遠いところに目を向けさています。「最終的にオリンピックでメダルがかかっている土壇場で、その選手にどういうプレーをしてもらいたいか」が僕の頭には常にあります。コート場に立っている6人の選手自身がその状況を同じように見られて、自分たちの意思で戦術を決定して遂行する。そんな選手になってもらいたいと思っています。それってまずは、自分がどんな選手になりたいか、自分の描く選手像を明確にすることから始める。そこからブレイクダウンして「だから、今何をやるのか」というところがあります。だから選手がコート場でプレーをしているときに、「そのプレーに意図はあったのか」と問いかけるようにしています。


中竹:その意図というのは、なりたい自分につながっているかということですね?


安保:はい、そうですね。自分の成長のためにその練習時間を使えているのかと問うています。


中竹:萩原さんはどうですか?

萩原:まさにその通りだと思っていて、自分の頭で考えろということはすごく言っている。おっしゃるように、「はい!」という返事だけはすごくいいんですよね。「はい!はい!はい!」と(笑)。


野澤:相当うなずきますよね(笑)。


萩原:だけど、何にもわかっていないよね、と。言われて次のプレーをやらせても、わかっていないことがよくあります。あれは条件反射としてコーチに何かを言われたら「はい」と言うだけであって、まず自分で考えてやっていないんですよね。今そのプレーはどういう考えでやったのかを聞くと、ほとんどの選手が答えられません。



あとは日常生活で、例えば私は合宿をやるたびに就寝時間は選手たちに決めさせるようにしています。それは明日のスケジュールを考えたときに、何時間寝るには何時に寝て、洗濯してとなった時に自分の時間のマネジメントができるということ。体のケアをする人もいるだろうし、必要ない選手もいるだろうし、一人ひとりの選手のやることは違うと思う。その時に、みんなと同じように動いて欲しくない。みんなが何となく動くから自分も動くのではなく、自分で考えて自分で行動しなさいと合宿の中では伝えています。


中竹:野澤さんはどうでしょうか?


野澤:今の話をお聞きになって選手にどんどん考えさせようとして大失敗というパターンがあると思うのですが、コーチングスタイルには落とし込むvs引き出す、言い換えれば「プッシュ」と「プル」があります。「どうしたらいいと思う?」と引き出すのがプル。「お前はこうするんだよ」と伝えるのがプッシュ。ここの比率がすごく難しいと思っています。やはり、ユース世代のコーチングは補助線を引いてあげる感覚がないといけません。仮に全部任せてしまうと大変なことになってしまったり、発想が深まらなかったりすることがあると思います。上手い指導者は、そのあたりの駆け引きがすごく長けていると思っています。


あとは「個人」と「組織」どちらにアプローチするのかは、特にユースの場合お二人は女子のチームを見ているので、かなりセンシティブなのかなと思っています。2015年のラグビーW杯で南アフリカに勝った時のヘッドコーチであるエディー・ジョーンズは、以前はサントリーにいました。その時ミーティングを全部見せてくれたのでよく見学に行っていましたが、月曜日にひとりずつ全40人とミーティングをするんですよ。「お前はこうしたら出られる。こうだから出られない」と出られない選手から進めていき、出られている選手には「お前にはこういうことを期待している」と伝えるんです。一人ひとりに役割を与えているのを見て、こんなに一人ひとりヘッドコーチは見ていくのかと。しかも、トップチームでそれをやる。横で萩原さんがうなずいてくれるので、きっとお話していただけるのかなと思うのですが。


中竹:はい、ぜひお願いします。


萩原:男子選手、女子選手という分け方がいいかはわかりませんが、私は女子を預かっているので、基本的には「みんな一人ひとりを見ているよ」というのをヘッドコーチが発信するのが大事だと思います。個別対応ですよね。ただ、あんまり個別対応をしすぎると自分本位になってしまう選手もいるので、線引きはその時々の選手の性質にもよるなと思っています。ここは難しいというか、気を遣うところではあります。


中竹:安保さんはいかがですか?


安保:バレーボールはチーム競技ですがそのチームを構成する最小単位は個人なので、その個人が強くならなければその集団も強くならないと思っています。私も個の自立ということをずっと言い続けているんですけれども、1対1が十数通りや二十数通りあるといつも考えながら、選手と個別に対応しています。選手との向き合い方というところでは、「あなたがなぜこの場に呼ばれているのか」を選手に伝えて、「あなたの長所はここだ」ということをしっかりと持ってもらう。周囲から私はどういう評価を受けているのか、というのがおそらく選手にとっては欲しい言葉だと思うんです。そこで選手が需要感を得ることが長所を伸ばそうという一歩にもつながると思いますし、自分の足りないところに目を向けることにもつながる。個別対応の第一歩は「あなたが呼ばれている理由は、ここがいいからだよ」ということから始まると思います。



目の前の勝ちよりも大切な価値を吸収させる


中竹:これはぜひ僕が聞きたいのですが、代表チームを作るときにユースでいながら価値が求められるんですよね。エディ・ジョーンズも「本質的には勝たなくていいから代表チームまで個を伸ばしてくれ」とはっきり言っていたんですね。けれど、負けたら怒るという(笑)。このジレンマの中にいると思うのですが、実際指導をしていく中でどちらにどれくらいの配分で指導しているのかを聞きたいと思うのですが。


萩原:私がジュニア専任コーチを仰せつかった時は、「基本的にそんなに勝たなくていい」ということを言われました。それよりも代表につながる選手を育成してください、と。負けていいということではありませんが、代表ほど結果は求めないということは言われました。


中竹:他はいかがですか?


野澤:かっこよく言うと、「7割育成で3割勝ちを狙う」といきたいですが、現場で代表を預かって海外で試合をやっているとものすごいプレッシャーになります。ラグビーでは日韓中という三つ巴の大会があって、終わってみるといつも圧勝で終わりますが、試合の前日とかスタッフにプレッシャーがかかっていて。そこに勝たせたいという自己承認の欲求があると思うのですが、それと「選手のためにこうするんだ」というバランスを取るのがすごく難しいと感じています。僕は一番トップの人が何を考えていて、どういうメッセージを出しているのかが、ユースの育成ではキーになると考えています。ヘッドコーチは一番偉そうに思えて、実は中間職。その上にマネジメント、ガバナンスといるのです。その方々が「勝つよりもこういうことをしてくれ」そういったメッセージを発しているかがキーになると思います。


中竹:安保さんはどうですか?

安保:私にとっても難しい質問です。もちろんトーナメントに出て勝利を目指してやっています。その一戦一戦は本当に可能な限りの準備をして臨んでいますが、そこまでやって結果として敗北になったとしたら、それでもいいという割り切りが僕にはあります。というのも、そのプロセスで選手がどのように勝利に向けてチームに対して貢献する働きをしようと準備しているかが、僕が一番重きを置いているところかもしれません。


準備してきたことをコート場でよりよく発揮できて勝利を納めたとしても、あるいは逆に相手チームが上回って自分たちの準備してきたことが十分に発揮できなかったとしても、学び得るものはそのプロセスが尊敬に値する取り組みだったかどうかで決まると思います。最善を尽くして準備をしたならば、結果的に勝利を目指してやるが勝利できなかったとしても仕方がないという割り切りがあります。


野澤:安保さんと話していておっしゃっていたのが、今年は史上最高のユースのチームだとお話しされていて。ただ実はそのチームが一番今までで勝ってなかった、というお話を思い出しました。チームのゴールとコーチングスタッフのゴールを分けて持っているのかも、一つとしてあるのかなと思いました。


これは日本ラグビー協会でよく話すことですが、選手のゴールは勝つことになるかもしれないし、スタッフはどういうコーチングをしたかったかとなるかもしれない。先日行われたU17のミーティングで中竹さんに詰められて、皆バラバラの答えをしてしくったなということを体現したばかりだったので(苦笑)。そんなことを考えてもいいのかもしれないですね。


中竹:僕の立場みたいに、彼らが遠征に行って途中から合流をしてプレッシャーをかけにいくわけですよ。そこで正解はないんですけど、聞くんですね。「どういうプランでコーチングをしますか」と。とにかく勝ちにこだわると言う人もいていいですし、10年後の代表を作ります、などゴールを明確にすることが大切。選手に自分で考えろと言いますが、僕の立場からすると、「コーチが考えていますか?」と問いたい


ユース世代は将来的な代表を送り出すための通過期間なので個の育成は重視されるべきなんですけど、僕が思う欠点としては日本のコーチが個の育成の仕方をほぼ知らないということ。「個を育てます」と言いながら個を育てていないんです。



エディ・ジョーンズは選手一人ひとりのカルテを作っているから、全員と面談ができる。今の日本のコーチは、ほぼ選手個別の強み・弱みを言えない。時間はかけているけど、フォーマットがない。そういう意味では、日本代表ユースのコーチその上のほぼ全員のカルテが頭に入っていて個別に指導できる。


ただ、注意したいのがこれが全てではないことです。少し前までの勝てない時代は、ヘッドコーチに「今の日本のユースには自信が必要なのでとにかく勝ってください。そうすると多分伸びていくんで」と言われました。4年前にスコットランドに勝ったのですが、それまでは1個下としか対戦してくれなかったのです。その時は当然「個の育成」もありましたが、勝てるチャンスは勝ってくださいと伝えました。ここに正解はありません。よく選手に考えさせて選手のやりたいことをと言いますが、コーチを教えるコーチングディレクター側としては、いかにコーチが自分のゴールを定めるか。いろんな軋轢はありますが、その中でどれを選ぶかが一番大切かと思います。



後編に続く>

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​一般社団法人スポーツコーチングJapan

代表理事:中竹 竜二

  理事:今田 圭太

     中村 亘

     五島 洋

メンバー:石渡 圭輔

     村松 圭子

     杉原 倫子

     吉崎 詩歩

     山本 隼也

     藤森 啓介

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